わが国は世界トップレベルの超少子高齢・人口減少社会を突き進んでいます。この時代のニーズに応えるためには、まず、医療体制の再構築が必要であり、そして、地域包括ケアシステムの確立が不可欠です。
医療体制については、病床数が人口 1,000 人あたり 13.0 床と OECD37 カ国の中でも群を抜いて多く、また、急性期病床の平均在院日数が 16.2 日と米国の 6.2 日やその他の OECD 諸国と比べても断トツに長い日数になっています。高齢者は 14 日間寝たきりに近い状態で入院生活を送ると、下肢の筋肉量が約 20%低下するために、退院時にはフレイルないし要介護の状態になる人が続出することになります。この状況を改善するには、各県ごとの地域医療構想を早急に確立して実行に移すことが喫緊の課題であるといえます。
地域包括ケアシステムは、現時点でかなり整ってきましたが、その中核的役割を果たすべきプライマリ・ケア医(理想的には家庭医療専門医)が多数育成されると、調整された統合ケア
(Coordination-type Integrated Care : 調整型統合ケア)を提供できるようになり、高齢者の介護・福祉は格段に進歩するものと考えられます。
一方、2020 年 1 月から始まった新型コロナウイルス(COVID-19) 感染症がパンデミックになり、当研究所が事業展開している菊川市家庭医療センターでも、いち早く感染症外来を開始して新型コロナウイルス感染症の人たちを早期に発見して受け入れ病院へ送ることに尽力しました。また、新型コロナウイルススワクチン接種に初期から積極的に関わっています。しかしながら、第 5波の感染拡大によって医療崩壊を起こしてしまいました。医療崩壊の要因としては、病床数は世界でも群を抜いて多いのに、集中治療病床が非常に少なく(米国の 8 分の 1)、特に、ECMO(体外式膜型人工肺)の台数がとても少ないことが指摘されています。しかし、真の原因は集中治療専門医や救急医療専門医が極度に少ないことなのです。
ますます進行する高齢社会の医療・介護ニーズに応えるために、そして、新興ウイルス感染症のパンデミックに対処できる医療体制を構築するためにも、欧米先進諸国、特に米国では臓器別専門医のみを養成する体制を改革して、ジェネラリストと総称される家庭医療専門医、集中治療専門医や救急医療専門医、そして病院医療専門医(ホスピタリスト)をたくさん育成する医学教育体制を確立しています。それに比べると、わが国の教育体制は卒前医学教育および卒後臨床研修ともに約50年遅れています。このままでは、世界一高齢化率の高いわが国の高齢者医療・介護のニーズに的確に応えることはますます困難になり、そして、新興ウイルス感染症のパンデミックに対しても、医療崩壊を来さない体制を作ることは非常に困難であると考えられます
当研究所は、今後卒前医学教育や卒後臨床研修の大幅な改革の必要性、つまり、臓器別専門医のみを育成する教育からジェネラリストも多数育成する教育体制に舵を切ることの重要性を説き、その中でも、特に家庭医療専門医と病院医療専門医(ホスピタリスト)を育成することに全力を注ぐ所存です。
家庭医療学研究所 理事長
津田 司